専門外来 関節リウマチ(リウマチ)

当院での関節リウマチの治療

リウマチの先進医療と個々の患者さまにとって最適な医療の両立

関節リウマチの診断や治療は、近年目覚ましい進歩を遂げています。私が研修医の頃に生物学的製剤の発売がはじまり、その後も診断基準の改訂や治療指針の見直しが行われてきました。関節リウマチを患うことにより一生不自由な状態で痛みに苦しむという過去のイメージは無くなり、早期から適切な治療を受けることにより、病気が無い状態と等しく体の状態を維持出来る可能性がはっきりとしてきました。そのような現実を少しでも多くの患者さまにわかりやすくお伝えしていき、また、患者さまそれぞれの考えを尊重し治療を組み立てていきたいと考えております。

女性の抱える問題を多面的にアプローチ

関節リウマチや膠原病は女性に多い疾患であるため、産婦人科領域の問題を同時に抱える患者さんを見受けることも少なくありません。当院は長くにわたって産婦人科診療を継続してきましたので、そういった場合でも安心してご相談いただけると自負しています。また、関節リウマチだけでなく更年期障害にまつわる関節の痛みや肩こり、骨粗鬆症についてもご相談をお受けしています。

関節超音波検査による正確な判断と患者さまとの情報共有

当院ではとくに、関節リウマチに限らず筋骨格系の痛みを診療する際、最新の関節超音波検査を実施しています。関節超音波検査は、レントゲンのようなX線被爆は無く、痛みは全くありません。骨だけでなく腱や関節の腫れ、関節液の溜まり具合などを詳しく見ることが出来ます。また、超音波の機械は診察室に設置してあり、診察中に必要に応じてすぐさま実施出来るように普段から準備をしてあります。患者さま検査画像を見てもらいながら、わかりやすくご説明させて頂きます。関節リウマチの患者さまでは、診断時はもちろん、治療効果の判定に非常に有用です。患者さまにとっては、関節リウマチという病気の理解、ご自身の状態の把握と治療の必要度について納得ができるという利点があります。患者さまとの良いコミュニケーションツールであり、より良い結果を導き出していくための必須の検査と言っても過言ではありません。 


関節超音波施行


副院長 林 則秀


関節リウマチとは


語源

温泉の効能書きに、「リュウマチ」や「ロイマチ」などと書かれているのを目にした事があると思います。リウマチの語源の「rheuma」「ロイマ」という「流れ」を意味する言葉が語源と言われていて、紀元前の古代ギリシャ、ヒポクラテスの時代にさかのぼります。リウマチとは、悪い液体が体のいたるところに痛みを引き起こすような状態を意味し、関節リウマチや痛風、変形性関節症などがその中に含まれていたと考えられています。温泉の効能書きは、関節や筋肉の痛みを伴う状態への効果として、語源の歴史とともに記されるようになったのかもしれません。

どんな病気?

関節リウマチは、免疫の異常によって関節の滑膜(かつまく)という関節周囲を包むように取り囲んでいる部分に炎症がはじまり、痛みや腫れが生じる病気です。未治療のまま経過すると炎症を長引かせることで骨や周囲の腱なども攻撃を受け、関節が変形していき機能障害を引き起こすことが特徴です。時には症状は関節だけにとどまらず、発熱や倦怠感といった全身症状が出現することがあり、肺や血管などの関節以外の組織にも炎症が広がることもあります。


健康な人の関節


健康な人の関節

骨と骨の間にある軟骨は、クッションの役割を果たす。滑膜は健康な関節では非常に薄い。


関節リウマチの人の関節



  1. 免疫の異常により、滑膜に炎症が起きる。軟骨や骨が少しづつ破壊される。
  2. 炎症によって厚くなった滑膜が、軟骨や骨を破壊。軟骨は薄くなり、骨も変形する。
  3. 骨破壊が進むと、軟骨が完全になくなり、骨と骨が直接ぶつかって関節を曲げるのも困難になる。

関節リウマチの特徴的な変形


スワンネック変形

スワンネック変形


ボタン穴変形

ボタン穴変形


尺側偏位

尺側偏位


外反母趾と槌趾

外反母趾と槌趾


原因


現在のところ原因ははっきりとはわかっていません。もともとの体質と何らかの刺激、例えば感染症、怪我、精神的ストレス、妊娠・出産、喫煙などが重なることによって引き起こされる免疫の異常が関わっていると考えられています。免疫とは本来は、細菌などの外敵から身を守るために備わっている仕組みですが、免疫の異常により誤って自らの組織を攻撃してしまう「自己免疫」と言われる状態により炎症を引き起こします。このことが原因である病気を「自己免疫疾患」といい、関節リウマチや全身性エリテマトーデスに代表される膠原病がそれに含まれます。

年齢や性別

日本では関節リウマチ患者さんは約70万人いるとされています。発症年齢のピークは30〜50歳代で、女性は男性よりも4倍ほど多く発症します。しかし、子供や若年者、高齢者でも発症することがあります。最近では、高齢人口の増加に伴い、高齢発症の関節リウマチ患者さんも少なくなく、その場合症状が典型的で無い場合や炎症が強いことがあり、短期間でADL(生活機能動作)の低下を招きやすいので注意が必要とも言われます。

関節の症状の出やすい部位

関節リウマチでは全身の関節に炎症が起こる可能性がありますが、なかでも起こりやすいのは、手の指、手首、肘、肩、頸椎、股関節、膝、足首、足の指などです。左右対称に起こりやすいといわれますが、早期の場合などは片側のみのことも珍しくありません。


関節の症状が出やすい部分


診断について

関節リウマチを早期に診断するための新しい診断基準が、アメリカリウマチ学会とヨーロッパリウマチ学会によって作成され、2010年に発表されました。それまでは1987年に発表された診断基準が使用されていましたが、罹患して8〜10年の患者さんをもとに作成されたもので、早期診断には不向きな部分もあり、50%程度の診断感度でしたが、新基準では75%前後へと向上したことが確認されました。


診断基準


目標に向けた治療:Treat to Target(T2T)とは

例えば、高血圧や糖尿病の治療では、血圧の数値やヘモグロビンA1cの数値などで明確な治療目標が設定されます。治療薬がなかった時代が長かった関節リウマチでは、目標のあいまいな時代が続いていましたが、近年のリウマチ医療の進歩により前述の早期診断のための診断基準の改訂や、効果の高い薬剤が開発されるようになりました。Treat to Targetとは、「目標に向けた治療」と訳されますが、これを実際に行うために4つの基本原則と10のリコメンデーション(推奨される治療指針)が示されています。

T2Tの基本的な考え方とリコメンデーション

T2Tの基本的な考え方
  • 関節リウマチの治療は、患者とリウマチ医が共に決めるべきです。
  • 最も重要なゴールは、長期にわたって生活の質 (QOL) を良い状態に保つことです。
    これは次のことによって達成できます。
    • 痛み、炎症、こわばり、疲労のような症状をコントロールする
    • 関節や骨に対する損傷を起こさない
    • 身体機能を正常に戻し、再度、社会活動に参加できるようにする
  • 治療ゴールを達成するために最も重要な方法は、関節の炎症を止めることです。
  • 明確な目標に向けて疾患活動性をコントロールする治療は、関節リウマチに最も良い結果をもたらします。それは、疾患活動性をチェックし、目標が達成されない場合に治療を見直すことによって可能となります。
リコメンデーション
  1. 関節リウマチ治療の目標は、まず臨床的寛解を達成することです。
  2. 臨床的寛解とは、炎症によって引き起こされる疾患の症状・徴候が全くないことです。
  3. 治療目標は寛解とすべきです。しかし、特に病歴の長い患者では困難な場合もあり、低疾患活動性が当面の目標となります。
  4. 薬物治療の内容は、治療目標が達成されるまで少なくとも3ケ月ごとに見直されます。
  5. 疾患活動性は定期的にチェックし、記録することが大切です。中〜高疾患活動性の患者では毎月、低疾患活動性または寛解が維持されている患者では3〜6ケ月ごとに行うことが必要です。
  6. 日常診療における治療方針の決定には、関節の診察を含む総合的な疾患活動性のチェック法を用いることが必要です。
  7. 通常の診療で治療方針を決定する時には、疾患活動性に加えて、関節の損傷や日常生活動作がどの程度制限を受けているかも考慮します。
  8. 設定した治療目標に到達した後には、関節リウマチの全経過を通じてその状況を維持し続ける必要があります。
  9. 疾患活動性のチェック法や治療目標の選択には、個々の患者の状況:すなわち他の疾患があるか、患者に特有の事情があるか、薬の副作用に関する情報があるかなどを考慮する必要があります。
  10. 患者は、リウマチ医の診断のもとに、「目標達成に向けた治療(T2T)」について適切に説明を受けなければなりません。

寛解(かんかい)達成に向かって

以前は、病気の仕組みがわかっておらず、進行を止めることが難しい病気でしたが、現在では、研究が進んで関節破壊のメカニズムが明らかになってきており、治療成績も格段に良くなりました。そして、痛みや腫れなどがほとんど無くて血液検査などでも落ち着いている状態である「寛解」を達成し、それを維持する患者さんが増えています。早期での診断精度が上がったことや、治療薬の飛躍的な進歩やきめ細かな治療方針によって、寛解達成率は上がったといえます。寛解には、痛みや腫れの無い状態を指す「臨床的寛解」と、画像検査で関節破壊の進行が進んでいない「構造的寛解」、日常生活のなかでの動作に不自由の無い状態を指す「機能的寛解」があります。T2Tにおいては、まず最初に到達すべき目標を「臨床的寛解」とし、そのためには薬物治療を3ヶ月おきに見直していくことを定めています。「臨床的寛解」を維持し、その先に「構造的寛解」、「機能的寛解」が得られるという考えに基づいたものです。

三つの寛解

  1. 臨床的寛解 = 痛みや腫れがない
  2. 構造的寛解 = 関節が壊れない
  3. 機能的寛解 = 日常生活に支障がない

治療導入で重要な時期:Window of opportunity(ウインドウ・オブ・オポチュニティ)

関節破壊は、関節リウマチ発症後早期から進行することが明らかになりました。以前は、徐々に進行していくと考えられていましたが、最近の研究では早期から進行が始まることが明らかになり、特に発症してから約2年までをWindow of opportunity(=治療効果の最も高い限られた時期)と呼んでおり、治療導入の時期として重要とされています。この時期から適切な治療を始めることが、その後の経過を左右するといっても過言ではありません。その時期を逃さないために、関節リウマチの疑いがもたれる場合は少しでも早く専門医の診察を受けることを強くお勧めします。

治療開始時期とその後の経過


window of opportunity


治療について

前述の通り、発症してから2年間のうちに関節破壊が大きく進むおそれがあることがわかっています。そのため、できるだけ早い段階から適切な薬剤を使用していくことが重要と考えられています。痛みを緩和する治療しか無かった時代は、関節が壊れていくことを止められず、寝たきりになってしまうイメージでした。現在では、抗リウマチ薬(DMARD)、生物学的製剤やJAK阻害剤などの登場と、それらの薬を上手に使うことにより関節破壊を抑えて生活機能を改善させる時代にかわりました。

関節リウマチ治療のアプローチとしては、①痛みをとること、②進行を抑えて関節の破壊を防ぐことです。痛みの原因は一つとは限らず、炎症からの「腫れによる痛み」や「関節の変形による痛み」があり、それぞれ適切な方法で治療しなくてはなりません。治療方法には薬物療法のほかに、手術療法、リハビリテーションがあります。

治療薬について

非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID)痛みの症状は軽減しますが、関節破壊をくい止めることは出来ません。胃腸障害などに注意が必要です。
副腎皮質ステロイド炎症を強力に抑え、痛みや腫れを改善します。しかし長期間、または量を多く使用することによる副作用に注意が必要です。
疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)免疫の異常を改善し、炎症を抑え関節破壊を遅らせます。多くの患者さまに有効ですが、効果が得られるまでにおよそ一ヶ月以上はかかります。
生物学的製剤炎症物質に直接働きかけ、炎症を抑えます。早期からの効果と、関節の破壊を強力に抑える効果が期待出来ます。肺炎などの感染症に注意が必要です。
JAK阻害剤炎症物質の働きを抑え、炎症を抑えます。2013年に承認された新しい薬で、生物学的製剤と同等の効果が見込まれます。

※薬の効果は患者さまによって異なります。